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グループ紹介

脳グループ

研究テーマ

[2013年7月]

超高齢化を迎えている現在、認知症患者は65才以上の14%、400万人に達するとされています。その認知症の約半数はアルツハイマー病です。アルツハイマー病の治療法はコリン・エステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬の対症療法に限られており、発症・進展機序に基づく疾患修飾薬の開発が必要と考えられます。

アルツハイマー病の三大病理は老人斑、神経原線維変化、神経細胞脱落です。現在、老人斑に蓄積する40アミノ酸前後のペプチドであるβアミロイドがアルツハイマー病の原因の最上流であるとするアミロイド・カスケード仮説に基づいて治療薬候補の開発が進んでいますが副作用あるいは投与開始時期の問題から難渋しています。そこで新たな視点に基づく治療法の開発も奨励されるべきであり、我々は「後天的危険因子から導かれるアルツハイマー病の画期的な開発」を行っています。

また近年、上述の老人斑、神経原線維変化、神経細胞脱落がそれぞれアミロイドPET,タウPET,MRIといった画像により検出可能になってきました。我々は日本全国におけるアルツハイマー病の臨床観察研究J-ADNI(Alzheimer's Disease Neuroimage Initiative)にも参加し全国・世界の研究者とネット・ワークを形成しながら、アルツハイマー病の分子病態メカニズムに基礎と臨床の両面から迫ることでアルツハイマー病の予防・治療法の開発に到達することを夢見て研究を行っています。

➊後天的危険因子からみたアルツハイマー病発症メカニズムの解明と予防・治療法の探索

1)糖尿病

糖尿病がアルツハイマー病の危険因子であることが多くの疫学的研究により示されています。しかし、その機序は明らかになっていませんでした。我々は糖尿病合併アルツハイマー病モデルマウスを作出することにより、この機序解明に迫りました(Proc Nat Acad Sci, USA, 107, 7036-41, 2010, Current Aging Sci, 4, 118-27, 2011, Mol Biosyst, 7, 1822-7, 2011, Diabetes, 62, 1005-1006, 2013)。糖尿病合併アルツハイマー病マウスは非常に早期に認知機能障害を示し、その機序としては脳血管へのβアミロイド蓄積の増強と脳内インスリン抵抗性が考えられました。また、糖尿病がアルツハイマー病の病態を修飾するのみならず、その逆方向にもアルツハイマー病が糖尿病の病態を修飾することを見い出し、糖尿病とアルツハイマー病の間には相互的な病態修飾作用があることを提唱しました。本研究は2010-2011大阪大学百選にも選ばれています。

本研究は運動・食事・薬剤によるインスリン抵抗性・糖尿病の予防・治療がアルツハイマー病の予防につながる可能性を示唆しました。また、さらなるメカニズムの探求は新しいアルツハイマー病の疾患修飾薬の発見につながるものと信じて研究を行っています。

研究基金:

  • 文部科学省 基盤研究(B)(平成23−25年度)「糖尿病とアルツハイマー病の相互病態修飾におけるインスリン・シグナリングの役割」 代表 里 直行
  • 日本学術振興会 科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究(平成24−25年度)「アルツハイマー病による全身糖エネルギー代謝への影響」 代表 里 直行
  • 武田科学振興財団 医学系研究奨励(精神・神経・脳領域)(平成24年度)「糖尿病とアルツハイマー病の相互的病態修飾におけるインスリン・シグナルの役割」 代表 里 直行
  • ノバルティス老化および老年医学研究基金・研究助成(平成25年度)「後天的危険因子からみたアルツハイマー病発症機構の解明」 代表 里 直行

2)中年期の脂質異常症

中年期の脂質異常症もアルツハイマー病のリスク・ファクターのひとつとして挙げられています。アポリポタンパクであるApoEε4がアルツハイマー病の強力な先天的危険因子としてありますが、いまだ機序が明らかになっていません。最近の世界の研究では、ApoEε4がβアミロイドのクリアランスに影響を及ぼすことが示唆されています。βアミロイドの量はアルツハイマー病発症に重要な因子ですが、それは産生とクリアランスのバランスによって制御されています。

我々は脂質異常症治療薬のスタチンによるアルツハイマー病発症抑制効果が前向きコホート研究により示唆されていることから、独自にスタチンのβアミロイドに対する作用を検討しました(Stroke 38, 3251-8, 2007, International Journal of Molecular Medicine 21, 531-7, 2008, J Biol Chem 285, 22091-22102, 2010, Neurodegenerative diseases, 10, 305-8, 2012)。その結果、スタチンがイソプレニル経路を介して、βアミロイドの産生とクリアランスの両方に働いて、アルツハイマー病の予防法になる可能性を世界で初めて示しました。スタチンがアルツハイマー病の予防法となるか、より高い科学的エビデンスの構築を目指しています。

研究基金:

  • 文部科学省 科学研究費補助金(基盤C)(平成20−22年度)「Aβ離散・クリアランスをターゲットとした認知症治療法に関する研究」 代表 里 直行

3)中年期の高血圧

中年期の高血圧もアルツハイマー病の後天的危険因子であることが示唆されています。我々は降圧剤がアルツハイマー病の予防・治療薬となる可能性を調べています(Frontiers in Bioscience. 13, 2253-65, 2008, Hypertension, 54, 1345-52, 2009., Expert Rev Neurother. 9, 1413-31, 2009.)。またアルツハイマー病においては血液脳関門の障害が存在し、全身炎症の脳内への炎症の波及を増幅させる可能性を示しました(Neurobiology of Aging, 34, 2064-70, 2013)。

研究基金:

  • 文部科学省(平成22−24年度)基盤研究(B)「血管からみたアルツハイマー病の新規治療法の開発」(代表 森下 竜一) 分担研究者 里 直行
  • 日本学術振興会 基盤研究C(平成23年度)「脳血管内皮の微細構造変化に着目したアルツハイマー病の病態解明」(代表 林 真一郎) 分担研究者 里 直行

➋アルツハイマー病の診断法の開発

1)アルツハイマー病の発症・進展過程を明らかにする為の全国臨床観察研究

上述のようにAlzheimer Disease's Neuroimage Initiative(J-ADNI)(PI:東京大学 岩坪威教授)に参画しています。本研究はアルツハイマー病の予防を将来的に目指した早期診断に関する研究であり、日本でも30施設以上が参加しています。大阪大学では精神科、神経内科の先生方とともに共同参加しています。本研究は我々独自の研究ともさまざまな形で関連しています。

2)糖負荷後の血中βアミロイド値測定(大阪大学発)

アルツハイマー病の診断補助方法として脳脊髄液中βアミロイド測定やアミロイドPETが開発されていますが、それぞれ侵襲性、利便性に問題があります。血中βアミロイドの測定はその代替として期待されていますが、そのままではアルツハイマー病の診断方法としての有用性が示されていませんでした。我々は糖尿病とアルツハイマー病の関連の研究の途上で偶然、アルツハイマー病マウスにおいて糖負荷後に血中βアミロイドが上昇することを見出しました(Biopys Biochem Res Com, 385, 193-197, 2009)。さらに臨床研究を行い、アルツハイマー病患者と非アルツハイマー病患者で糖負荷後の血中βアミロイドの変動パターンが異なることを見出しました(Dement Geriat Cog Dis, 34, 25-30, 2012 )。現在、大阪市立大学との共同でアミロイドPETと糖負荷後の血中βアミロイドの相関の研究を行っています。

研究基金:

  • 科学技術振興機構(平成22年度)A-STEPフィージビリスタディ可能性発掘タイプ(シーズ顕在化)「血中ベータ・アミロイド測定の最適化に注目したアルツハイマー病診断法の開発」 代表 里 直行
  • 科学技術振興機構(平成23年度)研究成果最適展開支援事業(A-STEP) フィージビリティスタディ(FS)探索タイプ「糖負荷後の血中ベータ・アミロイド変動パターンを用いたアルツハイマー病の診断法の開発」 代表 里 直行

➌新規治療ターゲット探索の為のβアミロイド代謝の研究

これまでの20年間の世界における研究は家族性アルツハイマー病の研究が中心であり、原因遺伝子であるPresenilinに関する研究を行ってまいりました(Nat Cell Biol, 2, 863-70, 2000)。Presenilinはβアミロイド産生の最終ステップの酵素です。このβアミロイドが産生される際の基質Amyloid Precursor Proteinと酵素Presenilnを遺伝子工学的に融合し、βアミロイド産生の機序に迫るツールを開発しました(PLoS ONE, 7, e48551, 2012)。

またβアミロイドは凝集して老人斑を形成しますが、最近では数量体であるオリゴマーが毒性を有することが注目されています。我々はβアミロイドの凝集体とオリゴマーが平衡状態にあることを示しました(Neuobiology of Disease 22, 487-495, 2006.)。この現象が、老人斑が先に出現しその数年以上あとに脳萎縮が生じることに関連があると考えています。

一方、βアミロイドのクリアランスをターゲットにした治療法の開発はいまだ進んでいません。我々は上述のスタチンの研究においてAmyloid Precursor Protein-Carboxy-Terminal Flagmentの分解促進によるβアミロイドの産生低下に加え、LDL Receptor-Related Protein 1によるβアミロイドのクリアランス増加が薬剤開発のターゲットになることを示しました(J Biol Chem 285, 22091-22102, 2010)。

研究基金:

  • 文部科学省 科学研究費補助金(特別研究員補助金)(平成11年度)「アルツハイマー病の記憶低下の発症機構の解明」 代表 里 直行
  • ノバルティス老化および老年病医学研究基金(平成14年度)「アルツハイマー病の発症機構の解明:アミロイドとプレセニリンのシグナル伝達」 代表 里 直行
  • 千代田健康開発事業団医学研究助成(平成14年度)「高齢者の精神機能の衰退予防に関する研究―アルツハイマー型痴呆症の病態解明と治療戦略」 代表 里 直行
  • かなえ医薬振興財団研究助成金(平成14年度)「アルツハイマー病に対する画期的治療法の開発」 代表 里 直行
  • 文部科学省 科学研究費補助金(若手A)(平成16-19年度)「アルツハイマー病に対する革新的治療法の開発」 代表 里 直行
  • 文部科学省 科学研究費補助金(萌芽)(平成18-19年度)「アルツハイマー病ベータアミロイド・フィブリルとオリゴマーの解析」 代表 里 直行
  • 科学技術振興機構 A-STEPシーズ発掘試験(平成20年度)「Aβ離散促進作用に注目したアルツハイマー病予防法の開発」 代表 里 直行

最終目標はアルツハイマー病を予防すること、発症した患者さんを治療することを目指します。その為にアカデミア、患者さん、製薬企業を含む社会全体の信頼のつながりを形成していきたいと考えています。アルツハイマー病の予防・治療が実現できることを祈り、超高齢化する世界に貢献します。

[脳グループ]
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